農家インタビュー #01

Interview #01

農家 あたらし屋

現在、農家民宿の受入を行っている農家数は70軒ほど。育てている作物も、立地も、家族構成も異なる農家さんたちは、それぞれ個性を活かした体験プログラムを用意しています。

こちらでご紹介する農家さんは「あたらし屋」の古旗和江(ふるはた かずえ)さん。北アルプス常念岳の麓、お家の周囲には、田んぼや森が広がり、夜にはきれいな星空を見上げることができます。「なるべく参加者全員に収穫体験をしてもらいたい」との思いから、春にも収穫ができるように収穫時期を早める作付けもしています。
古旗さんは1泊2日の短い間でも「子ども達の変化」を感じられることがあるのだそう。「子ども達にとって、達成感を得られる体験なのかもしれないね」と話す農家民宿の受入について詳しく話を伺いました。

農業の恵みを感じられる。古旗さんのひと工夫

農家民宿の農作業の内容は、それぞれの農家さんに委ねられています。古旗さんの畑では「収穫を体験して、採れたての作物を食べてもらいたい」との思いから、5月から少しずつ収穫ができるように収穫時期を調節しています。

古旗さん宅に来た子ども達は、まずみんなでひと休み。縁側がある畳の部屋で、お茶とおやつを囲んでから、畑へと向かいます。
5月はイチゴを収穫。まだ外気温が上がらないために外での栽培は難しいのですが、気温調節ができるビニールハウスの中でキュウリも育てています。5月の末からは、種まきや植え付け、玉ねぎの収穫。夏休みに入った7月後半からは、ジャガイモ掘りがメインとなりますが、ほかにもキュウリやナスなど夏野菜の収穫があります。

みんなで料理を準備。新鮮な野菜のある食卓を囲む

収穫した新鮮な作物は、さっそく夕飯へ。夕飯の用意はみんなで協力して行います。

「『キュウリでお漬物作ってみる?』なんて提案してみると『やってみます!』と子ども達もノリノリでね。浅漬けや塩もみなど、簡単な料理をします。

みんなで味見するときには『しょっぱいね』とか『味が薄いときはお醤油を加えればいいんだわ』とかワイワイ話しながら楽しむのもいい経験かなぁ、と思ってね。」

安曇野市農家民宿連絡協議会では、夕食の統一メニューのひとつとして、お肉のホイル焼きが並びます。子ども達に「レシピを教えてほしい」と言われてメモを渡したところ、後日お礼の手紙が届いて、家族に作ってあげたと報告があったのだそう。

「『あなたができるなんて信じられない』と家族にビックリされて喜んだそうですよ。簡単なメニューでもね、家族のために作ってあげたいと思えるようなステップに進める手助けができたらいいなぁ、なんて思っています。」

一晩で感じられた、子ども達の成長

農家民宿は主に1泊2日と短期間ですが、普段行うことのない農作業を通して「子ども達の成長が見られることがある」と古旗さん。

ある日の農作業では、畑の隅にいてばかりで何も手を付けない、声を掛けても返事をしてくれない子がいたそうです。

「いろんな子がいるよなぁ、と思っていましたけどね。それでも、みんなと同じように接していると、少しずつですが返事をしてくれるようになるんですね。」

そして、次の日の朝。「昨晩と比べて、振る舞いが違ってびっくりしたんだよね」と古旗さん。朝ごはんを準備するなかで「次、何しますか?」と古旗さんに伺い、率先して手伝う姿があったのだそうです。

そして、退村式を行ってお別れの時間を迎えた時のこと。

「その子が座って下を見てゴソゴソしていたから、やっぱりつまらなかったのかなぁ、なんて思っていたらね、涙をボロボロ流して泣いているの。先生が来て『とても、良くしてもらったね』なんて言うものだから、こっちも泣けてきちゃって。

私は特別なことは何もしてないのにね。子ども達はね、素直なのでしょう。本当はいっぱい感情を持っているのだけど、感情を表せる子もいるし、表せない子もいるんだろうなぁ、と感じました。知らない人の家に泊まって不安もあったはず。最後は思いが溢れてしまったんでしょうね。
子ども達にたくさんの思い出を作って帰してあげたいと、それを境に自分も変わったような気がします。」

子ども達が自分で目標を設定、達成。自信につながる経験

古旗さんが懐かしむように話したエピソードはもうひとつ。ある7月の暑い日、ジャガイモ掘りの作業をなかなか始めない子ども達がいたのだそう。

「先生が『世話が焼けますけど、お願いします』とおっしゃって帰っていった3人組だったのですが、意味がわかりましたね(笑)。虫を見つけちゃギャーギャー騒いでいました。」

それでも、いつの間にか一生懸命にやり始めた子ども達。古旗さんが暑いからそろそろ帰ろうかと提案したところ、思わぬ言葉が返ってきました。

「『どこまでジャガイモが埋まっているんですか?』と聞かれて、畑の向こう側を指差したら『あそこまでやってみたい』と言い出してビックリ。始めと比べてえらい違いだなぁ、と思いましたね。」

嫌になったら帰ればいいと、古旗さんは思っていましたが、ついに子ども達は最後までジャガイモを掘り出してしまったのだそう。

「『目標を達成したのが初めてだ。』そんなことを言ったのよね。次の日、先生に『俺、ジャガイモを向こう側まで掘ったんだ』と、自慢気に話していたから、よっぽど嬉しかったのかな。」

子ども達にとって達成感を持てた体験だったのかもしれません。古旗さんは臨機応変に、子ども達の声に耳を傾けています。

「目標ができて、それを達成できたことに自分たちでもビックリしたのかもしれないね。汗をかいて達成するって気持ちがいい、って思えたのかも。
畑で綺麗に植え付けができた、ジャガイモを掘り出せた、自分で獲れた野菜がおいしいと感じられる……など、少しでも充実した時間を用意してあげたいですね。」