農家インタビュー #02

Interview #02

農家 津村農園

現在、農家民宿の受入を行っている農家数は70軒ほど。育てている作物も、立地も、家族構成も異なる農家さんたちは、それぞれ個性を活かした体験プログラムを用意しています。

こちらでご紹介する農家さんは「津村農園」の津村孝夫・寿美(つむら たかお・ひさみ)さんご夫妻です。ご自宅は昭和初期に建てられたという古民家で、裏庭にはウマやヤギ、ニワトリを飼育。水田ではアイガモのひなを放飼し、害虫や雑草を食べてもらうアイガモ農法を行っています。
津村さんのもとで体験できる農作業は、農家の暮らしを営むうえで、季節に応じて必要とされるものが中心となります。「農家の暮らしに入り込んで、野菜が育つ過程に思いを馳せてほしい」と農家民宿に取り組む思いを伺いました。

農家の暮らしが見える

りんご畑や田んぼの間、細い道を上がると見えてくるのが、山の麓にある農家民宿「津村農園」。清らかな水の音が響く、橋を渡った先にある古民家です。孝夫さん自身がリノベーションし、昔ながらの雰囲気を色濃く残します。

孝夫さんは香川県出身。20代から農業法人で働き、その知識を活かして青年海外協力隊として、アフリカ・ザンビアで養鶏の指導を務めたこともあります。その後、友人が就農した安曇野を訪れた際、この地で独立して農業に従事する自分の姿を想像できたことから移住を決意しました。

寿美さんは、農業を始めるまで、和食の料理人として働いていました。現在は調理師学校で講師を務めながら、古民家の一角で自家製の野菜や、卵、アイガモ肉などを使った予約制のレストランを開いています。

子ども達が体験する内容は、農家民宿のために用意された作業ではなく、農家の暮らしを営んでいくなかで必要とされること。

初夏はエゴマの種まきや、トマトの定植、田んぼに水を貯めるために「あぜ」に土を塗るあぜ塗り、田植え。夏にはジャガイモを中心とする夏野菜の収穫です。秋には刈り取った稲の束を天日干しする作業である、はぜ掛け。そして津村農園が有機農業を行うなかで、野菜が育つために欠かせない作業となる大量の草刈りが、夏から秋にかけて必要となります。

「農家では、行わなくてはならないことが毎日たくさんあります。子ども達には、そのなかで安全な作業を担ってもらいます。農家の暮らしの一端を、見てもらいたいですね。」(孝夫さん)

自然の中に広がる遊び場

周囲の庭は、子ども達の遊び場。田んぼの奥には、木と木の間に通したブランコがあります。子ども達はもちろん、先生達にも人気のアトラクションなのだそう。勢いをつけて漕いでみると、田んぼに飛び込むような感覚!

そして裏庭には、ウマやヤギ、ニワトリがいて、まるで動物園のよう。

「動物を見たり、なでたりするだけでも、子ども達にとっては新鮮な体験なのでしょうね。エサをあげることもできます。」(孝夫さん)

山椒や、あけびなど、さまざまな植物が茂っており、近くにはたくさんの虫が住んでいます。ニホンミツバチも飼育しているので、庭にある花の蜜を集めて飛び回る姿も見られます。

孝夫さんは、大の虫好きで知識が豊富。虫が現れると途端に飛び出す虫解説も、虫好きの子どもには人気のようです。
「ハチやチョウチョ、イモリやカエルなど、いろんな生き物がいます。夜の田んぼを懐中電灯で照らして観察するのが面白かった、という子どもたちもいましたね。」(孝夫さん)

山の恵みを、自分たちで料理する

夕食は、収穫した野菜を天ぷらやサラダなどにして味わいます。春には野菜だけでなく、ワラビやタラの芽など、家の周りで採れる山菜が、食卓を彩ることもあります。

「朝ごはんの食材として使う鶏卵は、自分で採りに行きます。みんなキャーキャー言いながら鶏舎内に入っていきますね。

そして、料理はみんなで協力します。子ども達にできることを聞いて役割を決めてチームを組んだら、あとは好きなようにやってもらうことが多いですね。ドレッシングや、天ぷらも、子ども達に任せています。」(寿美さん)
料理に自信がなければ、盛り付けや配膳を担当。それぞれ担当してできあがった食卓を、みんなで囲んで食べることも農家民宿の醍醐味です。

食べ物に対する無関心をなくしたい

津村農園では、地域の高校生ともち米を作るゼミを開いたり、大人向けの農業体験の場を提供するホスト役を務めたりしています。農業に携わっていない人々を農業体験に受け入れる理由は、野菜の裏側に思いを馳せてもらうためです。

「野菜が畑で育つ姿を実際に見たり、農作業を体験したりすることを通して、野菜が自分の口に入るまでの過程を知ってもらう必要があると考えています。

スーパーやコンビニに並んでいる野菜は、お金を払えば買うことはできます。今は野菜を買うことが当たり前になっていますが、少し前まではそうじゃなかった。作るもの、育つものだったはずです。」(孝夫さん)

日本の食料自給率が低い背景には、”食べるものを作る・育てる”という意識が、希薄になってしまったことがあると考えています。
「日本の食糧自給率が低いということは、他国の食料を運んできているということ。お金があるから輸入すればいいのではなく、日本は自立しないといけないと考えています。輸入を持続できる保証はないですからね。」

少し前の日本では、農業は身近な仕事だったはず。農業が、もっと当たり前になる働きかけを続けています。

「農家の暮らしを体験してもらった子ども達が大きくなって、本当にこういう暮らしがしたいと思ったら、職業の選択肢に農家が挙がるかもしれません。自分たちの食べる分だけでも作る兼業農家でもいいと思いますね。

自分たちが食べるものに対して、もっと気を配れるようになる機会を用意してあげたいですね。」

食べることは生きていくための基本。津村農園では、日本の未来の農業や、生活を見据えながら、子ども達に接しています。